月詠


天を読み先を知る。予見の才を授かり神の声を聞く者。人々は”月詠”と称し王とした。

国の運命は全て月詠の言葉を拠り所とする。そんな国の、一日の始まり。


月詠こと青藍は、朝の予見を終え自室に引き上げた。

「ふう、、、」

程度の差はあれ、月詠の後は疲労感に襲われ体が重くなる。

一定時間、例外を除き誰も近づけずにいた。と、

「冬牙です。よろしいですか」

「どうぞ」

声を受けて入ってきたのは、例外の一人冬牙だった。

側近の中でも、より傍近くにいる人物である。

「今朝の月詠で出た東方の長雨、もう少し詳しく読めるか?」

「場所なり時期を狭められれば、ということですね」

「ああ」

「もう一度読んでみましょう。今」

「と、待った」

再度月詠を行おうと、部屋を出かかった青藍を冬牙は止めた。

「終わったばかりなんだ。後でいい」

「でも」

「今すぐどうこうなら、一回で読めるだろう」

「ありがとう。冬牙」

冬牙は青藍に優しく微笑んだ。

幼少の頃から、月詠の後継者としてここで育った。

学問、武術、必要なことを青藍に教えてきたのが
冬牙と樹荊の2人だった。

2人だけは、他に誰もいない時に青藍を名で呼べる。

兄のような父のような、そんな存在だった。

2人がいなければ、月詠の立場など脆いものだ。

「私がこうしていられるのも冬牙たちのおかけです。
 月詠を国のために実行してくれるから」

「青藍、、、、」

「月詠様なんて跪かれるより、こんなふうに名前を呼ばれて
 のんびりできる時間のほうが、私はずっと好きだもの」

隣に立った冬牙の手がふわりと頭に乗った。

「来たばかりの頃
 大雨と雷に驚いて私の部屋に逃げ込んできたものな」

「え、、、、?」

「何だ。覚えてないのか?
 私の寝台にもぐりこんで、しがみついてたのに」

「あ、、、えと、、、、」

「懐かしいよ」

「冬牙、、、、」

冬牙の傍らはあたたかい。青藍はそっともたれた。

そこに、扉をたたく音がした。

「誰だ」

「今ここに来るのは樹荊くらいでしょう」

青藍の言葉どおり、聞こえたのは樹荊の声。

「どうぞ」

一呼吸分の間をおいて、樹荊が入った。

「月詠直後にここに来るなんて
 あたしとお前さんくらいじゃないか。随分な言い方だね」

「用心に越したことはない」

「まったく、堅物なんだから。
 そんなんじゃ、恋のひとつもできやしないよ。
 なんなら、いい人紹介しようか」

「お前の世話になるつもりはないからな」

「恋もしないで終わる人生なんて
 退屈以外の何物でもないってのにね」

「、、、、言ってろ」

「ふふ、、、2人って、ほんと不思議ですね」

義理堅く生真面目。

真っ直ぐ伸びた、たくましい巨木とも例えられる冬牙。

一方の樹荊は華やかできらびやか。

仕草も言葉遣いも女性のそれに近い。

だが、2人揃えば国の双璧と謳われるほどの
名の知れた腕のたつ武官である。

気質やなりは正反対だが
だからこそ通じ合うものもあるのかもしれない。

この程度の掛け合いはいつものことだった。

「恋か、、、、」

「おや、好いているいる人でもいるのかい?」

「ち、違います。そういうことでは」

「でも、頬が紅に染まってるけど」

「え、まさか」

言いながらも、青藍の手は頬を押さえる。隣の冬牙が呆れているのは言うまでもない。


    BACK   NEXT