世界樹


「僕、戦争孤児なんです。だから」

「だったら尚更、国の責任で保護なりすべきだろう」

「初めは施設に入る予定でした。
 でも戦争が長引いて、孤児が増えて
 収容が追いつかなくなった。
 逆に、若い人は戦争に行くから少なくなる。
 働ける人がいなくなって、僕たちが働き手になった。
 そんな中で、僕は年上のほうなんですよ。
 僕よりも年下の子供だって、大勢働いてます」

「戦争を正当化する理由なんてない。
 勝ったところで、そのための犠牲は
 とんでもない数なんだ」

「早く終わってくれればいい」

「囚人でなければ、何処にでも連れていくけどな。
 これは自業自得か」

鎖の鈍い音が鳴る。

「住まいはどこなんだ」

「近くにある職員用の宿舎です。
 周りの人たちが気に掛けてくれるから
 困るようなことはないですよ」

「、、、、、」

強がっているようには見えないが
自覚無しでため込んでいたら反動は大きいだろう。

「我儘になれる時はそうしろよ」

「スティールさん」

「私が言っても、説得力はないかもしれないけどな」

「そんなことないです。ありがとう」

サージュは体を寄せた。

レグルスとはまた違う優しさに包まれる。

スティールも何かを守ろうとして
方法がこれしかなかったのだろうか。

ならば、いつも通りに真摯に向き合うことが役目だ。

「囚人でも、規律上認められていることは
 主張する権利があります。
 疑問があったら言ってくださいね」

「私は罪を犯した。罰を受けるためにここいる。
 多少の理不尽は覚悟してるよ」

「スティールさん」

「だけど、君が私の担当ならそれは無いだろうな。
 私のほうこそ世話になる。よろしく」

「はい」

心を通わせる一本の糸が、2人の間に生まれた。


「引っ掛かったら言ってください」

「ああ」

長い髪にブラシをいれる。

食事や身の回りの世話を、サージュは丁寧に行った。

「体の方は?痛むとか傷ができてるとか」

「変わったことはないよ。常識ある扱いをしてもらってるし
 サージュが気に掛けてくれるから」

「僕は当たり前のことをしてるだけです」

無理なく微笑みが浮かぶ。

「レグルスさんには会ったんですか」

「いや、まだだ。
 所長ともなると、緊急でも無い限り
 個々の囚人とは会わないのかな」

「見回ってるとは聞くけど
 会って話すまでは、しないかもしれませんね」

再度束ねた髪を、丁寧に整えた。

「終わりましたよ」

「ありがとう」

サージュは隣に座る。

一通り終わった後も、ここにいる時間が増えた。

レグルスの配慮で学習の時間はあるが
他にすることも、同じ年頃の友人がいるわけでもない。

「大丈夫なのか?終わった後もここにいて」

「レグルスさんには話してあります。
 ほどほどにとは言われてるけど」

「いつまでこの仕事を?」

「わかりません。
 それなりの歳になったら兵士かもしれないし」

「、、、、、」

間に合うのなら、ここを出る時引きとれないか。

ふとそんな考えがよぎる。

しかし、その資格があるのか迷いもあった。

犯罪者である自分の手元に置くことで
サージュにいらない批難が向くかもしれない。

ならばいっそ、突き放したほうがサージュのためか。

「サージュ、所長が深く関わるなと言ったら
 そこまでにしておけよ」

「スティールさん?」

「周囲の目もあるんだろう。話を聞いてる限りは
 サージュのこと気に掛けてるみたいだしな。
 私のためになってくれた結果
 サージュの立場が悪くなるんじゃ
 かえって申し訳ないよ」

「、、、、、どうしてですか」

「サージュのためだから」

「いえ、そうじゃなくて」

「サージュ?」

「そんなふうに僕のこと心配してくれるあなたが
 どうして密輸に関わったりしたんですか」

「それは、、、」

言いかけたところに足音が聞こえた。

姿を見せたのはレグルスだった。

「レグルスさん、あ」

サージュは慌てて立ち上がった。

「サージュ?」

「先生が早く来るって言ってたんだ」

勉強を見ている教師が早く来るということを
すっかり忘れていた。

「待たせないようにな」

「うん。また来ますね」

出ていく後ろ姿を追い
スティールは、懐かしくまた辛くもある面影を重ねる。

「どうして、、、、か」

確かに罪を犯した。

けれど、あの時点では他に方法がなかったのも事実。

「お前は、、、、どう思ってる?」

答えの返らない問いを、一人呟いた。








更に数日後。

「サージュ、スティールのことで少し話がある」

「、、、、はい」

「頭ごなしに怒るつもりじゃない。
 だから、そんなに硬くならないでくれ」

「いけないことだって、わかってます。でも」

察しはついていた。

けれど、サージュは離れられずにいた。

レグルスは、問い詰めるではなく優しくサージュを見る。

「彼は、今まで付いてきた囚人と何か違うのかい」

「、、、、、」

考えてみる。違うというなら最初の言葉だろう。

「今まで驚かれることはあったけど
 スティールさん、腹を立ててくれたんです」

「何に対してだ」

「何を考えてるんだ、ここの連中は。
 そんなの子供がする仕事じゃないだろうって」

「、、、、そうか」

言われれば返せない。

スティールの反応が、ごく自然だろう。

「今まで寂しい思いをさせてたなら
 責任は私だな」

「そんな、レグルスさんのせいじゃありません」

確かに、上に話したところで何度も蹴られた。

しかし、諦めていい問題ではない。

サージュの心が悲鳴をあげてからでは遅いのだ。

「強く上に掛け合ってみる。ここで働くにしても
 私たち以外との交流を増やせるようにな」

「レグルスさん」

「何が最善か、一緒に考えていこう」

「ありがとう」

立場は真逆ともいえる、レグルスとスティール。

同じように自分を心配してくれる2人に
サージュは改めて、心からの信頼を寄せた。




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