世界樹


世界樹。それは支えであり、また審判を司る樹。

人々の行いを見つめ、存続に値しないと判断した時は、枯れ木となり支えの役目を終えるという。

世界樹は見届け役を選ぶ。その証を授かりし者を「ヴァイス」と呼んだ。

しかし、今までヴァイスが現れるも世界は滅びない。

代わりにヴァイスが人知れず姿を消す。

そのためヴァイスは、見届け役ではなく人柱と言われるようになった。

いつから始まりいつ終わるのか、誰も知らない。


とある監獄の所長室。

ここを預かるレグルスは
今日収監される囚人のリストに目を通していた。

「人に手を出していないのはこの男だけか。

数人の顔が並ぶ中で殺傷事件をおこしていないのは一人。

名はスティールといった。

凶悪犯でなければ、付くのはサージュに頼めるだろう。

レグルスは、この監獄で働くサージュを呼んだ。

ほどなく、サージュが姿を見せた。

「お呼びですか」

「座ってくれ」

「はい」

2人、ソファーに並ぶ。

「今日入った囚人に付いてもらいたい。続いて悪いが」

「大丈夫です。他の人も忙しいみたいだし。
 どんな人ですか」

「名前はスティール。密輸に関わっていた男だ。
 暴力的な意味での危険は少ないと思う」

「レグルスさんと、同じくらいの歳の人?」

「たいした差はないな。これが現時点での資料だ」

サージュに写しを渡す。

「困ったことがあったら
 どんな小さなことでも、すぐに言うんだよ」

「レグルスさん」

「上も、もう少し考えてくれればいいが」

「ありがとう。でも、平気です。ここで。
 みんなに気にかけてもらってるから」

(国の情勢が関わるとはいえ、どうにかならないものか)

サージュは戦争孤児だった。

平和であれば働くような年齢ではない。

まして、監獄でなど。

しかし長引く戦で虎児は増え続け
若者は兵士として駆り出される。

受け入れる施設が追いつかないことも重なり
今では、様々な場所でサージュのような子供が
働き手になっていた。

「どうして密輸に関わったりしたんだろう」

「動機を含め、詳しいことはこれからだ。
 わかったことはサージュにも伝えるよ」

「はい」

「会うのは今夜でいいかい」

「僕はいつでも」

「なら、こっちの準備が出来次第知らせよう」

「お願いします」

サージュはソファーをおりた。

「ひとまず、戻りますね」

「また後で」

「はい」

部屋を出るサージュを見送ったレグルスは
知らず溜息を落としていた。

この環境がサージュにとっていいとは思わない。

どこかで発散できていればいいが
レグルスの知りえる範囲でのサージュは
懸命に仕事をこなす優等生だ。

精神的なストレスを抱え込まないか。

その懸念は、どうしてもレグルスから消えなかった。







部屋に戻ったサージュは、受け取った書類を棚に入れた。

「もういっぱいになっちゃった」

引きだしの1つは
今まで世話役として付いた囚人の資料で埋まっていた。

レグルスに言った言葉は嘘ではない。

レグルスは勿論、他の看守も
自分を気に掛けてくれている。

今まで身に危険が及ぶことも無かった。

それでも、サージュの心に影を落とすのは
守るために取った手段が、ここにくる理由になる方法しか
無かったという事実の存在。

『どんなに苦しく辛い思いをしても、人の魂は
 生まれおちた時の無垢な部分を失うことはない。
 だから、人を信じることは決して間違いではない』

遺訓となってしまった父の言葉を大切に
ここでの仕事を続けている。

だからこそ感じる、やりきれなさや苦しさは
サージュにとっても辛い。

「あなたは、どうして」

いずれは知るだろうその理由を
サージュは思い巡らせた。


薄暗い灯りの中、荒肌の壁が見える。

虚ろに、瞳は目の前にあるものを映した。

犯した罪は、どれくらいの刑罰を受けるのだろう。

もっとも、塀の外で自分を待つ相手はいないのだから
長くても短くてもたいして変わりはしないが。

ことりと、足音が聞こえた。

しだいに近づき、鉄格子の前に2人が立った。

一人は制服だったから、ここの役人だろうと察しがつく。

もう一人は、この場所にはおよそ不釣り合いな子供。

(どうしてこんな場所に)

同じ囚人だとは思えないが、理由もわからない。

スティールには聞こえない会話をし
制服の男が戻った。

そして、残った子供サージュは檻の中に入った。


「スティールさん、ですよね」

「ああ。君は」

「あなたの世話役に決まったサージュです」

「世話役?」

「はい。よろしくお願いします」

丁寧にお辞儀をしたサージュをまじまじと見る。

「君みたいな子供が囚人の世話をするのか?」

「はい」

「何を考えてるんだ、ここの連中は。
 そんなの子供がする仕事じゃないだろう。
 さっき一緒にいたのは誰だ」

「所長のレグルスさんですけど」

「所長か。顔を合わせる機会はあるだろうな。
 私が言える立場じゃないだろうが、一言いってやる」

(怒って、、、、くれてるの?)

今まで驚かれはしたが
腹を立てた様子を見せたのはスティールが初めてだ。

(やっぱり、父さんの言ったとおりだ。
 悪いだけの人なんていない)

人を信じられるから続けられる。

「ありがとう、スティールさん。
 でもレグルスさんがどうこうできる問題じゃないんです。
 国が認めて決めてることだから。
 僕も、わかってるつもりです」

見せる大人びた雰囲気も
ここで働くから身に付いたものだろうか。

「どうして監獄なんかで働いてるんだ」

サージュは腰をおろしてスティールと並んだ。

   BACK  NEXT