結婚記念日
|
そんなある日。 朝の着替えを終えたクルツが、何気に上着に手をかけると 「何だ」 服の間にあったのは、一枚のメモ。 「いつの間に。衣装係か」 これを忍ばせることが出来るのは衣装係くらいだろう。 顔を思い浮かべていくが、特段親しい相手がいるわけでもない。 クルツは広げてみた。 「夜に庭、、、、何だと」 夜に庭で会いたいとの一文だった。 そして記された名はロレント。 「この国に、いや城に入り込んでる?まさか」 ロレントは自国で自分付きだった士官だ。 そのロレントが近くにいる。 先の襲撃はロレントが関与しているのだろうか。 真意がどこにあるにしろ、会う必要はある。 何らかの行動を起こすつもりなら止めなければ。 「早まるなよ」 クルツは再び忍ばせた。 |
![]() |
|
夜になり気づかれないよう注意しながら庭に出た。 ゆっくり歩いていると足もとに石が転がってきた。 合図のつもりで石を取る。 月明かりの下、影が動いた。 「ロレント」 「お久しぶりです。殿下」 国を出て一年。 懐かしさもなくはないが、その前に確かめなければならない。 「衣装係の中にも国の人間がいるのか」 「身元を偽らせ、入れました」 「襲撃事件はお前が関与してるのか? 「殿下」 ロレントにとって、クルツは今でも仕えるべき相手。 再会を喜ぶ気持ちがどこかにあった。だが 「殿下、私は今でもあなたを仕えるべき主だと」 「今の私は第一皇女リイナの夫。国王の妹婿だ」 「、、、、、」 「答えてくれ」 ロレントは冷めた気持ちを覚えた。淡々と返す。 「神殿での事件は一人の先走りです。あの結果は我々も残念です」 「マテウス暗殺の命令はでていないんだな」 「状況しだいでは実行も許可すると、陛下は仰っていました」 「馬鹿なことを」 「殿下と我々の国を思ってなのですよ」 「国のためだと」 「マテウスに万一のことがあれば、子供がいない今 ロレントの言い分も一理ある。だが暗殺は失敗。 より警戒を強めているはずだ。 そしてこれは戦の口実にもなりかねない。 戦になれば、不利なのは自国。 「あの間者が私の国の人間だと知られてる。 「証拠を残してしまったと?」 「紋章を彫った肩留めが落ちたらしい」 「何という不手際を」 「この状況で私に継がせると思うか? 「第一皇女の夫といっても、結局は人質ではないですか」 ロレントはこれが我慢できなかった。 ロレントとて、この国の力は知ってる。 だからこそ片手で捻り潰せる小国の皇子を婿になど 「殿下が人質など、私は」 「お前が私のことを考えてくれる気持は嬉しいよ。 「、、、、、」 「リイナを愛している」 クルツの脳裏に浮かぶのは 「マテウスや重臣が私を人質だと思っていても どちらが間違いという話ではない。 ロレントがクルツを思う気持ちも 天秤に乗せれば、その狭間で揺れ動く。 「今日のところは引きます。ですがお約束はできません」 ロレントに向き直ったクルツが踏み出した時 「誰かいるのか」 「失礼」 ロレントの姿が消えると同時に、見回りの兵が現れた。 「何かありましたか」 「いや、風にあたっていただけだ。戻るよ」 クルツは城内に戻り、その足でマテウスの部屋に向った。 |
|
![]() |
|
![]() |
|
灯りがついているのを確認しノックを一つ。 マテウスの声が返り、クルツは部屋に入った。 「遅くにすまない」 「いや。どうした」 「私の国の人間が城に入ってる」 「、、、、、」 「衣装の中に手紙が入っていた。間違いなく私の国の者だ」 「知った相手か」 所詮、外交は互いの腹の探り合い。 間者を入れてきたとて驚きはしない。 むしろクルツが知らせてきたことを不思議に思う。 「どうしてそれを知らせる気になった。 「交換条件だ。戦をしかけないでほしい」 「、、、、そういうことか」 「先の暗殺未遂事件。先制の理由としては十分だろう。 マテウスとて無用な戦をするつもりはないが 「無益な戦をするつもりはないが 「自国の防衛まで放棄してくれとは言わないよ」 マテウスは新しいグラスを満たした。 「2人だけで飲むのも悪くないだろう」 「もらおうか」 「、、、、、もし帰還を求める声が出たらどうする」 グラスを満たしたルビーが波紋を作る。 「どちらかを選べと」 「選べるものではないか。どちらもお前に変わりない」 リイナの夫。第二皇子。 両立不可能だというのなら、今はリイナを取りたい。 だから戦にならないことを願う。 「リイナの夫でありたい」 「、、、、、」 「戦にならないことを願うよ」 「同感だな」 明日も変わらぬ夜明けであることを願い |
![]() |
![]() |