翌日の夜。同じ場所で2人は会った。

「馬車を待たせてあります。こちらへ」

イダを乗せ自分も乗り込むと、軽く天井を叩いて合図を送る。ゆっくりと滑り出した。

人の姿が小さくなってゆく。

明るい町は夜の静けさを取り戻し、やがて馬車につるされた僅かな灯りしか見えなくなった。

「どの辺りなんだ」

「もう少し郊外になります。何もないところですよ」

カラカラと車輪の回る音だけが聞こえる。

それから暫くして

「見えてきました」

言われて外を覗いてみれば、暗闇の中に屋敷の影が浮かんだ。

門を潜り玄関前に着く。

ラクスデルの後に続き、たどり着いたのは一番奥まった部屋だった。

「あるものは自由に使ってください。それからこれを」

ラクスデルは分厚い紙の束を差し出した。

「探している相手と、依頼人に関する資料です。
 どんな人物だったのか、知っておいてくださいね。
 依頼人に会ってもらうのは明日の夜。
 使用人たちは本当のことを知っていますから
 その点は考えなくて結構です」

イダは部屋を見渡した。見たことのない家具にふかふかのクッション。

自分には縁のなかった世界。

「、、、、上手くいくのか、こんなの俺知らない」

「あと7日。何とか誤魔化しますよ」

「人助けって言ったよな」

「はい」

ラクスデルはそう答えるが、イダにはどうしても楽しんでいるように見える。

そう、お気に入りのゲームをしているかのように。

「俺、あんたがゲームを楽しんでるみたいに見える」

イダに遠慮はなかった。あの下町で生きる為には強くあらねばならなかったから。

最後に頼りになるのは自分だけと知っている。ラクスデルは穏やかに微笑んだ。

「私は可哀想なあの方を、少しでも楽にしてあげたいだけです」

「可哀想?」

「自分が長くないとわかって、やけになっています。
 その中で弟のカイネに会いたいと、それだけを願っている。
 それがだけが唯一の希望なんですよ」

ならば、よりいっそう騙すのは難しいのではないか。

まして途中でばれたらその時は、、、。

「大丈夫。イダはカイネらしく努力してください。
 あとはこちらでやりますから。
 さて、、いい時間ですかね。今日はこれで。おやすみなさい」

「おやすみ」

ラクスデルは音を立てずに出て行った。

「カイネか、どれ」

先ほどの資料に目を通す。

そのうちに、とんでもないことを引き受けたかもしれないと思った。

「絶対ばれるって、こんなの無茶だ」

品行方正。誰からも好かれた明るくて優しい子。

だが、1人で出かけた後行方不明とあった。

「死んだって言ったよな。それはどうしてなんだろう」

読み進めてみるが死因についての記載はなかった。

「、、、明日でいいか」

束をキャビネットに入れてベットにもぐりこむ。

柔らかいふかふかのベットに誘われて、いつしか眠りについていた。


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