マスカレード(W)

「私の身体のことも聞いてますよね」

「聞いたわ。どうして黙ってたの」

「何が出来るわけでもない。気遣ってくれても、治しようがないんです。
 動きが止まるのは明日か、それとも何年先か」

「だからって、黙っていなくなる理由になんかならないよ。
 誰にも、何も言わないで行くつもりだったの?レイスにもアントワネットさんにも?」

「会えば、離れることに耐えられなくなる。祭りが終わったらそのまま行くつもりでした。
 あそこで眠ってしまわなければ」

パンと、アントワネットの平手がルディの頬を打った。

「独りで勝手に決めてしまわないで。
 残されるほうの気持ちはどうでもいいの?
 あのままどうにかなってたら、一生喪服で過ごすわよ」

「僕も同じことしたいけど、2人からじゃ悪いよね」

「3人だ」

レイスはルディの胸元を掴みあげる。

「つ、、、レイ、、ス」

「普段遠慮の欠片もないくせに、いらないところで気を回すな。
 あれが最後になってたら一生後悔するところだったんだ」

「そう思って、くれるんですか」

「私の知らないところでどうにかなるな。
 一生してもしたりない後悔なんて願い下げだからな」

「レイス、、、」

「この馬鹿を、、頼む」

部屋にはルディとアントワネットだけが残った。


「ルディ、あなたの大切な人教えて」

ルディはアントワネットを仰ぎ見る。気づかれている。それは確信だった。

「それを私に言わせるんですか?
 あなたの心が変わるわけではないし、私を理由に変えてなどほしくない。
 あなたの想いは知っているのに、それを私に言わせて、私にどうしろと!グッ、ゲホッ!」

アントワネットはルディを抱くと優しく背中をさする。

「ひどい人ですね、、優しくしないでくださいよ」

「レイスには笑っていてほしい。幸せになってほしい。
 でも愛し返してほしいわけじゃない。
 あの2人を見てると何だかあったかくなれるのよ。
 よかったって、そう思えてあたしも笑っていられる」

「、、、、、」

「あなたが戻ってないってわかって、どんなにざわめきたったかわかる?
 このまま見つからなかったらどうしようって
 そればかり浮かんで止まらなかった。
 レイスのこと考えたってこんなことなかったわ。
 あなたの隣にいても、あなたと2人でレイスとガレリアを見守っていけるなら
 同じように笑っていられる。
 でも、あなたに何かあったら笑うことなんて出来ないわよ」

「アントワネット、、、」

「レイスへの想いは燃え盛る炎じゃない。
 消すことは出来ないけれど、あたしを包んでいる穏やかな優しい灯り。
 その灯りごとあたしを受け止めてほしいと望むのは、叶わないことかしら」

「、、、いいんですか?私は我侭ですよ。あなたのことになると特に」

「こんなこと考えてるあたしのほうが、よっぽど我侭よ」

「、、、ありがとう、、」

ルディはアントワネットにコトリともたれる。これが夢の続きでないことを祈りながら。


夕方になり、レイスとガレリアは街を出る前にルディの事務所へと足を向けた。

出迎えたのはアントワネット。

「ルディさん、どうしてますか」

「落ち着いてるわ。
 本人はもう動けるって言ってるけど、今日は寝かせておくつもり」

「会えますか」

「大丈夫よ。会ってあげて」

ガレリアは静かに部屋へと入る。

「アントワネット」

レイスは入り口で止まるとアントワネットを見つめる。

「大丈夫よ。ルディへの同情じゃなくて、あたしがこうしたいから」

「これからは、ガレリアのことで弱音を吐けるか」

「まあ、、そうね。お互い様ね。、、、今ならあなたにありがとうって言える。
 出会ったこと、過ごした時間。そしてこれからも、よろしく」

「ああ。いい戦友だな」

清々しい笑みを返して、アントワネットはルディの傍らへと戻る。



「ルディさん」

「今朝はすみませんでした」

「また来ます。黙ったままいなくならないでよ」

「ええ」

「それから身体のことも。諦めないで。
 ルディさんと会えたこと、いてくれることに感謝してる。
 だから、これからもよろしくお願いします」

「ガレリア、、、」

上辺だけの同情や取り繕うだけの言葉ならないほうがいい。

だがガレリアはそこまで器用ではない。だからその言葉は届く。

そして望む言葉をくれるのだ。

「ありがとう。もう少しあがいてみますか」

翳りだした陽が影を落とした。

「ガレリア、そろそろ出るぞ」

「それじゃあ、また来ます。ルディさん、アントワネットさん」

「元気でね」

先に歩き出したレイスが扉に手をかけたところでルディを振り返る。

そしてはめていた指輪を外すとルディに投げた。

「次に会うときまで預けておくからな」

「レイス?」

「再会の約束だ」

そしてレイスとガレリアは自分たちの居場所へと帰っていった。

「あなたが心配なのよ。想いを知ることは難しいけれど」

「再会の約束、、、まったく、、似合わないことを、、」

「落ち着いたら、こっちからも行きましょう」

「そうですね。穏やかな風に吹かれるのもいいかもしれない」

ルディは約束の木を思い出していた。あの場所にアントワネットと立つことが出来るなら。

「一緒に行ってもらいたい場所があります。今すぐではないけれど」

「楽しみにしてるわ」

自分には手が届かないと思っていた唯一絶対の存在。その光が傍らにある。

アントワネットの笑顔を守りたいと、そうルディは思う。静かに誓いを立てた。


「よかったの?あの指輪、レイスのお守りだって」

「お前がいる」

「え、、」

「守りたいと、そう本気で思える相手がいれば強くなれるさ。
 己の全てと引き換えてでも、守りたい誰かが傍にいてくれるなら」

約束は不安を与えるものでしかなかった。だが今は希望、そして力。

光を守り続けるために、己が存在するために。

想いを乗せて眼差しが重なった。



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