風が伝えし奏で


屋内に入り更に部屋を抜ける。闇戯は祭壇のある部屋で止まった。

「アルムという名の精霊使いをご存じですか」

「アルム、、、、ええ、伝説の白の双翼でしょう。
 不可能はないとまで言われていた」

ルトヴァーユの後をアウラクアが受ける。

「伝説だけが残って、今じゃ実在したのかもわからない。
 そのアルムを、お前さんは知ってるのかい?」

「実在していましたよ。争っていた遥かな昔。
 ここはそのアルムが研究施設として使っていた場所です」

「封印をかけたのは、そのアルムだと」

「黒の統括様のいうとおり。アルムはとある事がきっかけで
 精霊を眠りにつかせあの門を置いた。
 イーリスが眠りにつくより前から時を止めたままなんです」

「ここをイーリスの居にするということですか」

闇戯はルトヴァーユに頷いた。

「けど、いるだけじゃ来る理由にはならない。
 他に考えていることがあるんでしょう?
 もったいぶらずに言ってしまったらどうなの」

「物事には順番がありますからね」

闇戯とアウラクアは、どこか似ているのかもしれない。

2人のやりとりを聞きながら、シェスタは思う。

「イーリスを、ここの管理責任者というのは如何です?」

「ここが動くと精霊に対してどのような影響がでますか。
 ルトヴァーユ様とアウラクアと私で制御は可能ですか?」

「それは動かしてみないとわかりません。
 だからこそ、統括の皆様はここを気にする必要がある」

「両刃の剣か」

アウラクアは静まり返った部屋を見渡す。

「精霊の力は使い方次第で武器にもなるからね。
 力が悪用されないよう、精霊が暴走しないよう監視はいる」

「この場所は精霊が持つ基礎効力を
 最も強く純粋な形で引き出すことができます。
 精霊のバランスを保つことは
 この世界を成り立たせる基礎でもある。
 世界をよりよく保つのが統括様の役目なら
 このアトリエを無視はできないでしょう。
 そして扱う精霊の力を考えれば、下手な相手には任せられない。
 その点、イーリスなら申し分ないと思いますが」

「なるほどね。たいした策士だ」

「アウラクア、言葉は選んでください。
 前から言っているでしょう。一言多いですよ」

「誉めてるんだけど」

「因果応報。返ってきても知りませんからね」

「ここがどのような場所なのかは、わかりました」

ルトヴァーユの声が通った。

「では、止まっていた時を動かしてもよろしいですか」

「その前にもう一つ、聞きたいことがあります。
 何故あなたにだけ門は許されていたのか」

「、、、、、、」

「アルムについてはこんな伝承もある。
 ホムンクルスの誕生を成功させたと」

シェスタとアウラクアの視線が闇戯に向いた。

「精霊が持つ効力を寸分狂いない配分で引き出し
 命の精霊マナによって新たな命を創る。
 伝承が本当ならば
 あなたがアルムの作り出したホムンクルスなんですね」

「まさか、、、、本当にアルムは」

「お前さん、そうか」

闇戯は歩みを進め祭壇を正面に見た。

この場所で目覚めたあの日に目の前にいた男。

『成功だ』

最初の呟きが奥深いところで響く。

「精霊とアルムによって創られた命。私はここで目覚めた」

「アルムは何故、この場所を閉ざしたのですか」

「時の統括は、ホムンクルスの誕生を知ると
 更に増やせと言ってきました。
 争いの真っただ中、統括がしたいことは、わかりきっていた」

「争いのための兵に」

「棄て駒ですよ」

近づいた背中からのルトヴァーユの声に短く言い放つ。

「感情も何もない、命令に従うしか能がないなら
 それでもいいでしょう。
 けれど、アルムが創りだすホムンクルスは
 私のように心と感情を宿している。
 アルムは統括の命令を断りました。
 そしてここが使われなよう門を閉じ
 精霊を眠りにつかせ、姿をけしました」

「一人になってそれからは」

「アルムは白の将に私を預けた。
 私はその将の後を受けて軍を預かりました。
 そして、生き延びた」

ルトヴァーユは闇戯の前に立った。

闇戯にとって、ここを動かすのは辛いのではなかろうか。

「本当に、ここを動かしてもいいと」

「、、、、、」

「アルムはあなたを守ろうとして、ここを閉ざしたのでしょう。
 私とイーリスのためにここを動かすつもりなら」

「アルムの望みだからです」

「、、、、、」

「精霊を道具として使わなければ
 ここは有翼にとって必要な場所でしょう。
 停戦からこれだけの時がすぎ、白と黒が並ぶことのできる今なら
 あの時の統括と同じことは言わないと信じます」

闇戯はシェスタとアウラクアに向いた。

「両統括様も、そう信じてよろしいですね」

「もちろん。争いたくて争いを始めるなんてあるわけない。
 白と黒が並ぶ今が続くよう、最善をつくすよ」

「アウラクアと同じく、あなたのような思いは誰にもさせません」

「白銀の翼と命にかけて」

「少し離れていてください」

ルトヴァーユが離れると、闇遊は魔方陣の中に立った。

そして唱え始める。

「精霊が向かっていく。これだけの精霊を一度に動かすなんて」

アウラクアは流れる精霊を追った。

闇戯の声に惹きつけられるように精霊が流れる。

「アルムが創りだした最高傑作。それが彼だったのか」

「精霊が精霊を動かしているようなものでしょう。
 我々よりもずっと、対精霊の力は強い。もしも彼の力が悪用されたら」 

「恐ろしいこと言わないでよ、シェスタ。世界が壊れる。一人でも可能でしょう、彼なら」

3人は詠唱を続ける闇戯を見守った。


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