Crossing Road


言葉少なく1日が過ぎ、約束の時間が近づいた。

「行ってくるね」

ここまで来たら言うこともない。ただ信じること。

「無事で。虎丞さん」

「お2人の帰りを待ってます」

「うん。それじゃ」

虎丞の背中が夜の闇へ消えた。

そして2人になり、蛍雪は静かに口を開いた。

「兄さん、考えたくないけどもしも」

「2人の犠牲の上に、生きてけるのかな。私たちは」

「だから、、、、いいよね」

「蛍雪」

「兄さんとなら」

「、、、、、そうだな」

重い決断を2人は確かめ合った。その時

「白竜、、、、蛍雪、、、、」

「何だ、今のは」

「誰か、、、、いるの」

2人の耳に届いた知らない声。そして影が揺れた。

白竜は蛍雪を庇うように立つ。

「蛍雪、動くなよ」

「兄さん、、、、」

何かが起こっているのはわかるのに、その何かがわからない。

白竜と似たもどかしさを、蛍雪も抱えている。

蛍雪は唇を噛んでいた。

「誰だ」

「力の制御を知りたいのだろう。それを教えたい」

「何、、、、」

「今の私ができる、せめてものつぐないに」

「つぐないだと」

「力を恐れることはない。使い方なのだ。
 同じ炎でも、焼き尽くす業火となるか優しい灯りとなるかは
 使い方しだい。間違わなければいい」

「どういうことだ」

「心を決めるのだ。何のためにどう使いたいか。
 妖しとしての、人にはない力。どう使いたい」

己の望み。何をしたいかは決まっている。

「私は守りたいだけだ。蛍雪と今を。
 私たちのために命がけになってくれている2人を」

「兄さん、、、、」

「ならば使える。大切なものを、大切な人を失わないために。
 そう心が決まれば、お前の力は2人の助けになるだろう」

「本当にそれだけで制御ができるのか?誰なんだ」

「、、、、、」

「つぐないって、言ったよね」

「蛍雪?」

「僕たちに対してつぐないたいって、その言葉が出るなら
 思い当たるの一人だけだよ。妖しとしての力を知ってる。
 兄さん、いるの男の人じゃない?」

「まさか、、、、」

白竜は目の前の影を見つめた。

「、、、、父さん?」

「お前たちの母を愛した。
 だがそのために辛い思いをさせてしまったな。
 お前たちのために何かしたいと思いながら
 何もできないと諦めていた。
 だが、力の使い方を教えることならできる。
 親として何かをさせてほしい」

「親だと?今更知りたいとも思わないさ」

「、、、、、」

「兄さん、、、、。でも、虎丞さんたちを助けられるなら」

見えぬ目が影を射抜く。

「僕もわかりません。
 親と言われても、僕たちは知らないんです。
 一緒に暮らしたことも話したこともない。
 見たことも聞いたこともないものを
 どうやってわかれって言うんですか」

「、、、、、」

「でも、虎丞さんと絽帆さんを助けられるなら
 力を貸して下さい」

「蛍雪、本気か」

「兄さん、僕たちの事情は考えないで。
 虎丞さんたちを助けられるなら、行こう」

「、、、そうだな、私たちの事情を押しつけてもいられないな」

今優先させるべきは虎丞と絽帆が無事に帰る事。

そのために自分にも何かができるなら
引き下がる理由があろうはずはない。

「手を貸してくれ」

「行こう」

3人は月光さす夜へ駈け出した。
















一方、埠頭に着いた虎丞は絽帆を捜した。

ほどなく暗がりに立つ影が見えた。作り笑いの準備をして近づく。

「絽帆」

「来たか」

中で眠っている絽帆を目覚めさせるには、先に仕掛けたほうがいいのか。

考えた一瞬の隙に、絽帆が仕掛けた。

「何、、、、く、、、」

かけられたのは縛の呪。そのまま抱きかかえ倉庫に入った。

「その美しい顔を傷つけはしない。美しいまま私のものになれ」

「絽、、、帆、、、」

「美しい器と獲物が同時に手に入るとはな」

「誰、、、なんだ」

「知らずともいい。
 いや、私を求めることしか考えられなくなる」

動こうと試みるが跳ね返せる相手ではなかった。

「っ!!」

ボタンを外され露わになった肌を
冷たい空気がかすめる。

組み敷かれ身体が重なった。

「は、、、はなせっ!」

「名は何という」

「誰がお前なんかに」

「、、、いつまでもつか」

ついと指が滑った。

「ん、、、、い、、やだっ」

「諦めろ。快楽は悪ではない」

のど元に落ちた唇がついばんでゆく。

「は、、、、ふ、ん、、や、、、」

ベルトに手がかかり、カチャリと鳴った。

「や、、、、絽帆!起きてっ!」

「ん、、、何っ、、、、」

「絽、、、帆?」

「う、、、、ぐ」

絽帆が離れた。そして突然、炎が絽帆を包んだ。

それは妖しのみを退ける退魔の炎。

「何、、、術師、、、」

「何のつもりだよ。これじゃ」

これでは、妖しである虎丞は近づくことができない。

「つ、、、、くそっ!」

絽帆の器から何かが抜けた。

すると炎も消えて虎丞の呪も解けた。

「絽帆!」

抜けたものを抑えるのが先だった。

だが、虎丞は絽帆に駆け寄った。

「虎丞避けろ!」

「え、、、、」

抜けたものが虎丞と絽帆目がけて突進してきた。

間に合わない。2人とも思った。

だが、目の前でそれは止まった。

「絽帆が?」

「白竜だな」

追った視線の先にいたのは白竜と蛍雪。

そして傍らには知らない影。

「あれは」

「虎丞、先にこいつを片付けるぞ。
 白竜が使えてるなら3対1だ。
 白竜、そのままこいつを止めてろ」

「は、、、はい」

絽帆は背中から虎丞を腕におさめ手を重ねた。

ぴくりと、虎丞の身体が震える。

「お前の持ってる力を手に集中させろ」

「、、、、絽帆だよね」

「ああ。もう大丈夫だ」

「、、、、うん」

絽帆は言霊を紡いだ。

「跡形もなく砕け散れ。砕破!」

「ぐ、、、ぐああっ!」

断末魔が響き、それは消えた。

「、、、、終わったよ」

「絽帆、、、、」

「白竜、すぐに戻るから先に行っててくれないか。
 その影が無事に送り届けてくれるだろう」

「兄さん、もう大丈夫なの?虎丞さんと絽帆さんは」

「無事だよ。みんな無事で終わった。先に戻ろう」

「でも、戻るなら虎丞さんたちも」

「2人だけになって伝えたい言葉があるんだろう。
 絽帆さんがそう言うんだから」

何が起こっていたのか蛍雪にはわからない。

状況判断は己以外の誰かに任せるべきだろう。

「わかった」

「絽帆さん、先に出ます」

「ああ」

白竜たちを送り出すと
絽帆は明りの差しこまない場所へ虎丞を連れていった。

そしてコートを肩にかける。

「嫌な思いさせて悪かった」

「ほんと、、、だよ。あんな、、、の、、、」

カタカタと震えが戻る。

「もっと早く」

虎丞の声が詰まった。

「ごめん、虎丞」

「こわ、、、、かった、、、」

「、、、、、、」

「怖かったんだから!絽帆の馬鹿!」

泣きながら、虎丞は絽帆の胸板を叩いた。手加減無しで。

「ごめんな、、、、ほんとにごめん」

何度も繰り返し、絽帆は優しく虎丞を抱きしめた。










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