

喪失
感情を失うというのは、こういうことなのだろうか。何を聞き、何も見ても心が動かなくなってゆく。
美しいと思えていた中庭の花さえも、ガレリアには『ただの物』としか映らなくなっていた。
本来なら、ここから教え込むはずだった。生きていく術を。だがそれが出来ない。
食事も受け付けないため、細い体はますます華奢になってゆく。
「いいんですか、このままで。飢え死にしますよ」
「口を出さないんじゃなかったのか」
「人殺しまではしたくありませんので」
「、、、、」
「本気になったのなら、最後まで面倒を見てあげたらどうです。いっそ廃業もいいですかね」
「そっちこそ、本気か」
「続けるつもりなら、私の前でそんな顔しないでください」
わずかに眉をよせる。
「また来ます」
短く告げると部屋を出て行った。
己の中で、何かが変わってるのだろうか。答えはでない。
レイスはガレリアの部屋へと向かう。
「ガレリア」
背を向けたガレリアに呼びかけるも返事はない。
近づくとガレリアは花をつまんでいた。
花弁を口に含み、床には吐き出されたそれが散らばっている。
レイスが目に入らないかのように、その存在を完全に無視していた。
それとも、本当に気づいていないのか。
レイスは口に指を押し込んだ。
「んっ!むぐっ!やあっつ」
じたばたと暴れるガレリアを押さえつけ、残っていた花弁を取り出す。
「私がわかるか?」
「、、、、、?」
きょとんとレイスを見返し、首をかしげる。
何も知らない赤子のように。
そして、母親に抱かれたい子供のようにレイスに抱きついた。
「、、、お願い、、、眠らせて、、、、助けて、、、」
その手をとり抱き上げるとベットへと下ろす。
とたん、ガレリアはレイスの腕を掴んだ。
「やだ、、行かないで、、、」
レイスは傍らに身体を寄せた。
「レ、、イ、、、ス、、、」
「少し眠れ」
「いて、、くれる、、、」
「ああ」
腕の中で身体を丸め、ほどなく静かな寝息を立て始める。
その夜、ガレリアに悪夢は訪れなかった。