
執事の領分
「ファルア、だったな」
「はい。宜しくお願い致します」
新しく執事として入った屋敷は、キエヌの町でも有数の名門貴族だった。
佇まいも立派で、手入れも行き届いている。
だが、広さの割りには使用人が少ない。
今までとは少し勝手の違う屋敷のようだ。
「では、支度を整えますので一度下がらせていただきます」
「あまり堅苦しくならなくてもいい。
ここは私と息子の瑞樹、それに預かっている愁馬。
使用人も多いほうではないだろう。
、、、、瑞樹たちのいい話し相手になってくれればと思うよ」
「私などには勿体無いことです。御前、失礼致します」
頂いた部屋で執事服に袖を通す。
いつものことだが、落ち着くと同時に気が引きしまるものだ。
自分のことよりも、当主とご家族のためになることを最優先とする。
決して、横に並ぶ立場であってはならない。
それが、教え込まれてきた執事の領分。
例え当主からの言葉であっても、話し相手という立場になれるはずもない。
「瑞樹様に愁馬様か。奥方は亡くなっているんだったな。さて、始めるか」
鏡に映る自分に一声かけて、部屋を出た。
『立場をわきまえることを忘れずに』
胸の奥でそんな声が聞こえた気がした。