追憶の庭園


同時に平行して存在する2つの世界。

その一方は大小様々な浮島で構成されており
住人は背に翼を宿していた。

浮島の中には、美しい花が咲き誇る庭園もあった。

白の双翼イーリスは、淡い色彩の中をゆっくりと歩いていた。

「ここまで咲き揃うのに、どれくらいかかったんだろう」

花を傷つけないよう、そっと触れる。

「同じ花でも、薔薇の花なら己一輪をより美しく誇ろうとする。
 孤高とは上手く言ったものだな」

「美しすぎるのもどうかしら」

「え?」

目の前に、いつの間にか小さな精霊がいた。

「私、ここの花の精霊。貴方、初めてね」

「イーリスといいます」

「薔薇の花が好き?」

「薔薇は好きな花ではありますが、、、哀しくもありますね」

「哀しい?」

花の精霊は聞き返していた。そんな感想を聞くのは初めてだ。

「薔薇の棘は己を護る盾。
 けれど、優しく触れようとする手も拒んでいるように思えて」

触れようとする全ての手に、薔薇は棘を向けてしまう。

それが運命なら、哀しい運命だとイーリスは思うのだ。

「せめて、私が花を傷つけないよう歩かせてもらいます」

イーリスは軽い会釈をして散策を再開した。

「きっと、貴方には優しく返すわ」

小さくなる後姿に、精霊はそっと呟いた。


そのまま暫く歩き、イーリスは足を止めた。

「ルトヴァーユ様?」

見えた後姿は白糸のような長い髪。

有翼の全てを統べる、白銀の双翼その人だった。

権限は大きく、存在は絶対唯一のもの。

全てに傅かれる、薔薇と同じ孤高の人でもあった。

「ルトヴァーユ様も御出ででしたか」

「イーリス、、あなたも」

「はい。美しい見事な庭園だったので」

「そう、、、、ここの花は辛いときもあるけれどね」

「ルトヴァーユ様?」

ルトヴァーユの目の前あったのは、鮮やかな紅の花。

懐かしく、そして寂しそうな顔。みると、その花には名がついていた。

「カルサイト、、、この名前、、、どこかで」

「前任の白銀の統括です。この花のように、鮮やかな紅の瞳でした」

「、、、、、」

イーリスは、その名を聞いた時のことを思い出した。

そして同じように、窓から遠くを見ていた顔。

「白銀、白、黒、それぞれの統括が眠りにつくと
 その名前を冠した花を植えるのだそうですよ。
 いつからの習慣かは私も知らないのですが。
 、、、、私の花は、イーリスに頼んでおこうかな」

微笑んで頷いたほうが、ルトヴァーユは安心なのかもしれない。

だが、イーリスはふいと視線を外した。

「まだ、、、いなくなられては困ります。嫌です」

「イーリス、、」

「私はまだ、何も返していない。
 ルトヴァーユ様のために何かを成し遂げたいのです」

イリースの気持ちは嬉しく思う。だからこそ、、、望むのだ。

「、、、一つ頼まれてくれませんか」

「はい、何なりと」

「2人だけの時は、白銀ではなく同じ双翼の一人だと思って下さい」

「それは、、、?」

「ルトヴァーユ様ではなく、ルトヴァーユでかまいません。」

「そ、、、そんな無礼なこと」

「一人くらい、主従ではなく同じ高さの誰かが隣にいてくれればと。
 、、、それを、ここにくると思うんです。勿論、他には気づかれないように」

「、、、、私でいいのですか?」

「ええ」

そんな大切な相手が自分で良いのかと、イーリスは思う。

けれど同時に、嬉しく思うのも本当だった。

「、、、わかりました。でも、あの、、、いきなりそれも」

「少しずつ、慣れてもらえればいい。いいですよね、、、、、」

ルトヴァーユは一度言葉を切った。そして、、、

「、、、カルサイト」

「、、、、私で、よろしいですか?」

2人はカルサイトに問いかけた。

応えるように、風がそっと花を凪いで通り過ぎていった。


  BACK