

宝箱
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「ん、、、、これは」 工房で探し物をしていたときだった。 隅のほうに埃を被った箱があった。 随分長いこと置きっぱなしだったようだが、何だったろう。 手を止めて蓋を開けてみる。 「、、、、こんなところに」 入っていたのは小さい子供のおもちゃ。 まだこの店を引き継ぐ前 子供が大人になる過程で 店を引き継ぐことになってからは人形作り一本で この工房にいたじいさんの姿を思い出しながら |
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「どうしたの、それ」
戻った私に、さっそく同居相手のアレクは声を掛けてきた。
「工房で探し物をしていたら出てきたんだ。昔、じいさんが買ってくれたおもちゃだよ」
「動くの?」
「錆び付いてるし、油も切れてるだろうからすぐには無理だろうな」
「たしかに古そうだよね」
ただの木が十分遊び道具だった昔。
人は何かを得て何かを失う。
そんなことの繰り返し。
「あの遊園地、どうなってるんだろうな」
「おじいさんとの思い出の場所なんだ」
「よく連れて行ってもらったよ。そこで買ってたな。
子供の頃は随分広く感じたが、今は狭いものだろう」
「あ、、、」
アレクが何かを思い出したように、小さく声を上げた。
「どうした」
「待って。確か」
席を離れたアレクは新聞の束から一枚引き抜いて戻った。
「もしかして、ここ?」
見せたそれは、入場割引券。
じいさんと行っていた場所ではないが
家からそう遠くは無い。
だが、こんな街中じゃ
近所からそうとう苦情をくらうんじゃないのか?
「いや、こことは違うな。近いところにあったのか」
「やっぱり子供じゃないと目は向かないか。
でも、住宅に囲まれるように建ってて大丈夫なのかな」
どうやら考えたことは同じようだ。
「夢が詰まったおもちゃ箱。あなたの宝物を見つけにきませんか」
アレクは広告の謳い文句をそのまま追った。
子供にとってはおもちゃ箱をひっくり返したような場所かもしれない。
「ね、イツキ、行ってみない」
「は?」
男2人で遊園地だと?
「今なら違った見方をするでしょう?
新しい何かを見つけられるかもしれない。
人形師は新しいものから多くの何かを
感じ取らなきゃ駄目だって言ってるじゃない。
ピエロに出会えるかもしれないよ」
「、、、、確かに間違ってはいないが」
アレクの言葉は私が言ったことだし、じいさんの言葉でもある。
だがアレクは
「わかってるよ。僕は人形だって」
そう。
動いて言葉を持ってはいるが
アレクの器は人体ではなく私が作った人形。
空の人形に入ってしまった魂。それがアレク。
「イツキの傍から離れないようにするし
気づかれないように気をつけるから」
アレクはこの状態をどう感じているのだろう。
入ったはいいが出られなくなった。
出られないのだから、どう思ったところで今が変わるわけではないけれど。
そうだな、、、、。
このおもちゃを見つけた日に、遊園地の広告が入ってきたのも
じいさんが誘ってくれたのかもしれない。
「たまにはいいか」
「ほんと?」
「簡単に歩いて帰ってくるだけだぞ」
「うん。わかった」
表情など動かないはずなのに、何故か嬉しそうな顔に見えた。
しかし、、、、男2人で遊園地か。見ているほうはどう思うのだろう。