時逢わせ


「イツキだ」

何気にかけたテレビにはイツキが映っていた。

テレビの取材なんていつ受けたんだろう。

イツキの仕事は人形師。人形を創るのが仕事。

お祖父さんから譲り受けたお店もある。

名前が売れるような仕事じゃないって言ってたけど
そうでもないんだ。

テレビでは、イツキが創った人形も紹介していた。

「驚くよね、やっぱり」

持ち込まれていたのは等身大の人形だった。

そう、僕と同じ。

僕が入りこまなければ
この器もあんなふうに紹介されてたのかな。

「あれ」

「面白いものじゃないだろう」

「イツキ」

テレビが消えたと思ったら、イツキがいた。

「見たらだめなの?」

「家でしてる話と同じことしか言ってないよ」

素っ気なく返ったけど、もしかして気にしてくれた?

この器と同じ人形があって
その人形について話してたから。

「ありがとう、イツキ」

「、、、、、」

「おいしいコーヒー作るね」

「ああ」

僕はソファーを立った。

せめて、イツキが好きなコーヒーだけはおしいく作ろう。

時計を見ながら標準よりも時間をかける。

少し濃いブラックがイツキのお気に入り。

沸かしたてのコーヒーを運ぶと、テーブルには手紙があった。

「何の手紙?」

「この前オーダーを取った客からだ。
 無事に到着したようだな」

「けっこう時間かかった依頼だよね」

「細かい注文だったからな。
 それだけ思い入れもあるってことだ」

「最近、オーダー多いんじゃない?」

「増えてきてることは確かだな」

あまりオーダーが増えても
お店を開けていられなくなるからって注文数は制限してる。

逆にそれが希少価値になって
イツキが創る人形は値が上がってきてるとか。

「イツキの人形を好きな人が増えてるってことだよね」

僕は素直にそれが嬉しかったのだけれど
イツキは頷かない。

「違うの?」

「好きっていうか、もちろん気に入ってくれるのはいいが」

イツキは言葉を探しているようだった。

「勢いじゃなければいいけどな」

「勢い?」

「周りの雰囲気に乗せられて
 私の人形なら何でもいいから手に入れたい。
 その勢いだけじゃ、そのうち冷める。
 人形ってのは相性なんだ。
 どれでもいいから、並んでる中からとりあえず。
 そんな選び方は、正直してほしくない。
 機械の大量生産なら別だが」

「その相性って、わかるものなの?」

「相性がいい人形は、選ばずとも手が出るよ」

「迷わないってこと?」

「ああ。10体、いや100体並んでいようが
 本当に相性がいい人形に出会えば
 他に目はいかなくなるさ。
 そんな出会いをして迎えられれば、人形も幸せだろう」

イツキは自分の手元に視線を落とした。

「この手で創り上げたものは、それなりに愛着もあるさ」

イツキは子供を心配する親のようだった。

イツキにとって人形は、ただの物じゃなくて
本当の子供と同じ。

手を離れた後も、気になる存在なんだろうな。

でも一方では商売道具でもあるわけだし
それはそれで複雑なんだと思う。

「どうした」

「何だか、子供の心配をするお父さんみたいだなって」

「まだ早い」

「でも、いつかはそうなるんでしょう。
 やっぱりこのお店継いでもらいたい?
 同じ人形師を目指すって言ったら、どうなの?」

「どうしていきなり話がそこまで飛ぶんだ」

「人間に永遠は許されない。
 けれど、想いを受け継ぐことで永遠になる」

「、、、、、、」

「古の神話から、遥かなる未来の夢へ」

「どこでそれを」

「次の個展のポスター、新聞にも出てた」

新聞には、次の個展が紹介されていた。

解説によれば、人は時が止まったものに永遠を託すのだという。

「イツキはお祖父さんの想いを受け継いだ。
 イツキの想いは、誰が受け継ぐのかなって」

「想いか、、、、。
 永遠を望むほどのことはしてない。ただ」

「ただ?」

「私の後にこの店を継ぐ人間がいなくても、人形がいるよ」

「、、、、、」

「私の創った人形が誰かの腕に抱かれて
 その人がいなくなっても次の誰かに巡り会う。
 そんな出会いを繰り返してくれればきっと」

「イツキ、、、、」

「私がそれを見届けるのは無理だけどな」

そう、姿形はいくら似せることはできても
決定的な違いは消せない。

人形は「物」で、人は生きる「者」

イツキがいなくなったら僕は、、、、、

「今日のコーヒー」

イツキは少し難しい顔になった。

「加減違った?時間はちゃんと見たはずだけど」

粉と水の分量。時間と加減。

イツキにちょうどいいように気をつけたつもりだけど
どこかで間違ったかな。

「いれなおそうか」

「いや、逆だ」

「え?」

「旨いよ」

「それだけ慣れたってことか」

イツキはそう言って笑ってくれた。

「よかった」

人と人形は違う時を生きる。

迎えた人の手元に、ずっといられるわけじゃない。

いつかは僕も。だからこそ願おう。

せめて同じ時間を過ごす間は、涙よりも笑顔が多くありますように。


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