


魔法使い
私の生業は人形師。
人形を作るのは勿論、修理も仕事のうちだ。
ある日持ち込まれたそれは、しかし馬のぬいぐるみだった。
「これ、イツキが直すの?」
言いながら、同居人形のアレクが横に座る。
「仕事だからな」
「修理っていうより、裁縫に近い気がする」
ほつれた部分から飛び出ている綿を詰め直すだけだから
アレクの言うように修理と呼べるものではない。
「この前のは、けっこう大がかりだったのにね」
「あれは骨董級の別格だ。
あそこまで細かい仕掛けは初めてだよ」
この前に受けた人形は
精巧に作られたからくり人形だった。
複雑、かつ繊細な仕掛けにこちらも緊張したものだ。
修理依頼で破損させるなど
笑い話にもならないからな。
だが、骨董品だろうがぬいぐるみだろうが
人形は持主の心を映す鏡。
忘れられた骨董よりも
大切に抱きしめられたぬぐるみのほうが
よっぽどいい表情を見せる。
これも持ってきた少女も、大事そうに抱きしめていた。
アレクはぬいぐるみを持ち上げた。
「あれ、、、固い。何か入ってるの?」
「押してみろ」
「こう?」
腹の部分を軽く押す。すると
「わ」
甲高い馬の鳴き声が響いた。
「鳴くんだ」
「量産しているおもちゃだが
あの子にしてみれば大切な宝物だ」
「そうだね。でも、驚いた」
「、、、、、」
驚いたと言ってもアレクの表情は動かない。
ガラスの瞳は乾いた光を返す。
だがそれは当たり前。
「どうかした、イツキ」
「いや」
「これ、修理代いくらになるの?」
「部品代が発生するわけじゃないからな。
これくらいなら、直せる人間はいそうな気がするが」
「イツキのこと魔法使いって言ったよね。
きれいな人形を作ってくれる魔法使いだから
この子のことも直してくれるって。
真っ先に浮かんだのがイツキなんだよ。きっと」
「魔法使いね、、、」
「三角帽子に、長い服着て杖持って」
「黒い服とか言うなよな」
「魔法使いって、そんなイメージじゃない?」
「それじゃ童話の中の魔女だ」
「、、、、あんまり違和感ないかも」
アレクの中では
すでに黒服の私が出来上がっているようだ。
「はい。直してあげてね」
「ああ」
人形を抱きしめて笑顔を見せる少女。
華やかな、夢のような魔法を人形は人にかける。
だが同時に残酷な現実を突き付ける。
それが人形の持つ魔法の力。
この仕事をして、両方を見てきた。
店で私を囲む人形達は
私にどんな魔法をかけているのだろう。
私はアレクの魔法にかかっているのだろうか。
「でも、僕もイツキは魔法使いだと思う」
「私はただの人形師さ」
「、、、、ううん」
アレクは一度私から視線を外し
再び無機質な瞳を向けた。
「イツキはきれいな魔法を見せてくれているよ。
少なくても、僕には」
「アレク、、、、」
サイフォンから湯気が上る。
「そろそろかな」
アレクはソファーを立った。
人形がみせる、美しく残酷な魔法。
この店から旅立つ人形達は
迎える人にどんな魔法をかけるのだろう。
それが、あたたかな優しい魔法であることを願う。