変化


私の仕事は人形師。人形を造るのが仕事だ。同じく人形師だった祖父の仕事を店ごと引き継いだ。

ある日、少し変わった依頼が入った。

「はい、コーヒー」

店の在庫表をめくっている私の隣に座ったのは、同居人形のアレク。

「まとまった注文でも入ったの?」

「少し変わった依頼がきてな」

在庫表を閉じてコーヒーを手に取る。

「どう」

「訊かなくても大丈夫だろう。それなりに長く一緒にいるんだし。旨いよ」

「よかった」

安堵の言葉とは裏腹に表情は動かない。

そう、アレクは私が造った人形。

どういうわけか、人形の中に魂が入ってしまい出られなくなった。

そして一緒に暮らし始めて、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

「それで、変わった依頼って」

「持ったら女の子らしくなれる人形が欲しいと」

「、、、、何それ」

小さく首をかしげる。

「要は小さい頃から男の子と一緒に外で遊んでいる
 お転婆で男勝りな娘に、もう少し女の子らしなってほしい。
 そういうことだ」

「気持ちは判らなくないけど」

「人形を持ったからって、性格が別物みたいに
 変わるわけじゃないけどな。
 親にしてみたら、切実な願いなんだろう」

「でも、そういう人ならありえるかもしれないよ。
 だって、今まで人形を眺めることがなかったんでしょう?
 性格は変わらないと思うけど、変身願望生まれるかもしれないね。
 人形が着ているようなドレスを着てみたいって」

「私の仕事は現実と虚構の狭間みないなものかもな。
 日常をふと抜け出して、一時に幻の中に身を置く。
 その一時が、また歩き出す力になればいい」

その逆も多数見てきたけれど。

「それで、依頼人に渡せる人形ありそう?
 イツキの人形なら、どれでも大丈夫だとは思うけど」

人形と人の出会いは相性。

迷ってとりあえずの選択をするのなら、まだその時ではないということ。

今回の依頼も、出来れば娘の方に一度店に来てもらいたい。

「一度連れてきてもらうか」

「娘さんを?」

「無理やり押し付けても、娘さんにとっても人形にとっても
 いい事は無い。
 本人が来る気になれば、少しは興味を持ったってことだろう」

「そうだね、、、いらない物をもらっても嬉しくない。
 相性のいい人形に巡り合えれば
 人も人形も、幸せだもんね」

「そういうことだ」 

「ねえ、前にいなかったっけ。
 料理、裁縫、家事全般が苦手だったけど
 イツキの人形を買って帰ったら、そっち方面頑張った人」

「、、、、いたな」

言われて思い出した。

不器用だと言っていたのに、しばらくしてから
自分が作った服を着せて、店に来たっけ。

手にはいくつかの絆創膏があったけれど。

「その子、お店にきてくれるといいね」

「ああ」

人の奥底に眠る想いを、人形は映し出す。

人形を抱きしめることは、自分を抱きしめること。

人形が人を変えることがあるのなら、手にした人にとってのより良い方向への導きとなるよう願う。


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