


花散し
僕は誰にも見えない。人の間を綿のように、ゆらゆらふわふわ。
僕のことを幽霊って呼ぶみたい。悪さをするつもりなんてないのにな。
ある日、僕は一軒の店の前で止まった。そこは人形の店だった。
かわいいぬいぐるみから人の姿そっくりな人形まで、いろいろあった。
それにすごく綺麗。どんな人が作ってるんだろう。
しばらく店の前で揺れていると、店に人が入った。
扉が閉まる前に僕も中に入る。この人が作ったのかな。この人は更に奥へ。
ここは店と住居を兼ねているみたい。
廊下を進み、もう一度扉を開ける。
その先は工房だった。
そして中には、この人と同じくらいの人形が椅子に座っていた。
「これで完成だ」
そう言うと、瞳を入れた。
なんて綺麗なんだろう。波打つブロンドに瞳は蜂蜜色に輝いてる。
僕はその人形の周りをくるくると回っていた。
と、ふいに景色が真っ白になった。
それは一瞬だった。風景はすぐに工房に戻った。
でも、、、僕は人形を見ていたはずなのに、その人形が見えない。
「おかしいな、、何処に、え?」
僕の声だった。
そして、あの人が僕を見ている。ただ、驚いて。
「、、、どうなってるんだ」
「僕が見えるの?聞こえるの?」
「人形のはずなのに」
「人形?」
「動くのか?」
半分わかった。でも残りの半分は信じられなかった。
「まさか、、、僕、人形の中に」
下に視線を動かしてみる。見えたのは人形の足。人形の手。
手を上げてみる。ゆっくりと立ってみる。
僕が思ったとおりに動いた。
少し歩いて振り返ると、椅子に人形はいなかった。
「いくつも作ってきたが、中に何かが入り込むなんてのは初めてだな」
「あ、、、あの、ごめんなさい。綺麗だなって思って見てただけなんだ。
ほんとにそれだけで、こんなことするつもりじゃ」
「出られるのか?」
「、、、、やってみる」
方法なんてわからないから、出ようって強く思った。
だけど、何も起こらない。
「、、、、無理みたいだな」
「、、、、、」
まさかこんなことになるなんて。どうしたらいいんだろう。
この人形が売り物だったら、僕はこの中にずっと?
何も言えなかった。そしたら
「仕事の邪魔さえしなければいい。好きにしろ」
「え、、、、?」
「部屋は空いてるからな。適当に使え」
それって、このまま置いてくれるってことなんだろうか。
「いいの?このまま」
「いいもなにも、出られないんじゃ仕方ないだろう。
売りに出して、おかしな噂でも立てられたら面倒だからな」
「あ、、ありがとう」
「ただ、忘れるなよ。その器は人形という”モノ”だ。
ヒトのように体温があるわけじゃない。食事も睡眠も必要ない。
勘違いだけはするな。、、、、お前のためだ」
「、、、、、うん」
そうだ。
いくら動けるといったって人の持つ鼓動はない。
だけど、店に並んでる人形とも違う。
、、、、、僕は何になるんだろう。
でも、考えてもしかたない。出られそうも無いし。
ただ、この人に迷惑をかけることだけはしちゃいけない。
「あの、名前聞いてもいい?」
「イツキ。お前は」
「昔はアレクって呼ばれてた」
「ならそう呼ぼう。しかし、、、こんなことがあるんだな」
「僕も、、、信じられないけど」
「とりあえず部屋に行ってろ。それから、ここには勝手に入るなよ」
「わかった。じゃあ、後で」
こうして僕は人形という器を手にした。
これを奇跡というんだろうか。それとも先に待っているのは悪夢なのか。
始まりのこの日、町には花散しの風が吹いていた。