


目覚まし時計
「イツキ、朝だよ」
「ん、、、うるさい」
虚ろな意識の中で呼ぶ声がした。誰だ、、、静かに寝かせろ。
「イツキ、朝だってば。ご飯できてるよ。イツキ」
諦めずに更に揺さぶりをかけてくる。うるさい!
「朝は不機嫌なんだ!ほっとけ!」
思わず怒鳴っていた。が
「おはよう」
気にも留めていない様子で声が返る。
「、、、、お前な」
「朝ごはんはちゃんと食べなきゃ。
体が資本だってイツキが言ってるんじゃない。
冷めないうちに早くね」
言うと、アレクはすたすたと部屋を出て行った。
私の生業は人形師。言葉どおり人形を作るのが仕事だ。
そして私を起こしたあのアレクも、私が作った人形。
その人形に意思と感情を持った精神体が入り込み
目の前で動き出した。
もちろん、体温も鼓動も無い。
しかし、見ているだけでは人形とは思わないだろう。そしてあろうことか、入ったはいいが出られなくなった。
売りに出せるはずもなく、こうして一緒に暮らしている。自分の作った人形と暮らすというのも、おかしな話だが。
人の念が人形に何らかの影響を与えることには驚かないが、こんなケースは初めてのことだった。
「イツキ〜」
「今行く」
着替えを済ませ部屋を出た。
食事といっても簡単なもの。
だがこうなる前は昼まで寝ていたし、食べるにしても出来合いですませていた。
それは思えば、随分まともな食事だ。最後は決まってコーヒー。
今時サイフォンを使いたがり、家に眠っていた道具一式を引っ張り出してやった。
「出来たよ。置いておくね」
「ああ」
確かにインスタントよりずっと香りがいい。
それを飲みながら依頼内容を確認する横で、アレクは本をめくっている。
人形が人形の本を読むのも不思議な光景だ。
「イツキはどうして人形を作ろうと思ったの」
視線は変えずにアレクが訊いた。
「訊いてどうするんだ」
「何となく」
「簡単だ。じいさんに泣きつかれたから」
「お祖父さん?」
「ここはじいさんの店だった。
潰したくないから後を継いでくれって泣きつかれたんだよ」
私の祖父も人形師。初めは父にここを譲る気だったらしい。
だが、父は人形などに興味はないとそれをけった。
まあ、シビアなビジネスのほうが向いている人だから当然だろうな。
「イツキは人形が好きだったの?」
「別に好きでも嫌いでもなかった。
その時は特にやりたいこともなかったし
じいさんには可愛がってもらったからやってもいいかって。
OKしたとたん、しごかれたけどな」
「ふうん、、、。でも素質はあったんじゃない?イツキの人形、綺麗だもの」
「、、、、、」
自分の作った人形に褒められる。、、、ここは礼を言うべきなんだろうか。
考えていると
「イツキ、そろそろ時間じゃない?」
「ん?ああ、、そうだな」
客は自宅で商談を望むケースが多い。
今日も相手方の家に呼ばれている。
一度部屋に引き上げ、必要な物を揃えた。
無理難題がこなければいいが。
アタッシュケースを抱え玄関へ。
まだ微かに香りが流れている。
「イツキ、待って」
「どうした?」
「ネクタイ曲がってるよ」
言うと器用に直す。体温を持たぬ人形の手。
「いってらっしゃい」
「じゃあな」
<人形・ヒトガタ>と書いて<人形・にんぎょう>。
人が想いを乗せた時、物は者と成りえるのだろうか。
今度の客は人形に何を求めてくるのだろう。
そして、今まで作った人形はどうしているのか。
もっとも、それを本気で気にしていたらこの仕事は続けられない。
「、、、、仕事だ。仕事」
私はアクセルを踏み込んだ。