

願い
サルバスの街角にある小さな花屋。
花を売るハンナとその友人の間で、毎月同じ日に来るとある客が話題になっていた。
「ハンナ、そろそろじゃないの?待ってる人」
「待ってるって、あたしは別に」
「ほら」
その客に気がついた友人が、さりげなく場を離れる。
「ちょっと」
「こんにちは」
「あ、いらしゃいませ」
話題になっていたのはサルバスの警備隊隊長ケイオス。
若い娘たちの間でよく名前の上がる人物だ。
ハンナもそんな娘の一人だった。
「いつもの花束でいいですか」
「ええ。お願いします」
「作りますから少し待っててください」
ハンナはいつもと同じ花束を作り始めた。
ケイオスの注文は最初に来た時から変わらない。
そして、その理由を知ったとき自分の思いは叶わないと信じた。
だから今のままでいい。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとう」
花束を受け取ったケイオスが店を離れると、友人が戻ってきた。
「相変わらずね。世間話くらいすればいいのに。
でも毎月必ず来るってことは、花束以外に目当てがあったりして」
「だから違うの。
あの花はケイオスさんが好きだった人が好きだった花」
「だった?それって」
「もう亡くなってるわ。
月命日のお墓参りを欠かさないくらい、今でも大切なのよ」
「そっか、、、、」
「あたしのことより自分の心配したら?そろそろ行かないと遅れるわよ」
「え、もうそんな時間?」
時を告げる教会の鐘が鳴った。
「いけない。それじゃまたね」
「またね」
慌てながらも嬉しそうに駆け出して行く姿が人の中に消えていく。
少しだけ羨ましいけれど、今以上を望んで今を失いたくない。
「今のまま、、、少なくてもこの日にはお店に来てくれるんだから」
ささやかな願いを、ハンナは小さく呟いた。