

地平線まで続く草原の中に、一本の大樹があった。大きな枝を風が揺らし、ざわざわと音をたてる。
そこが少女のお気に入りの場所。
晴れた日には枝の上で風に吹かれるのが日課となっている。
その日もまた、同じように大樹へと足を運んだ。すると、、
「あ、、、」
先客がいた。吹く風に銀色の髪が揺れる。
少女はそっと近づくと前にたった。
「綺麗な人、、、」
眠っているのか目を閉じたまま起きる様子はない。
長い銀色の髪に真っ白な服。
「天使かな、、」
少女は静かに髪に触れた。
「ん?、、、、っ」
「あ、ごめんなさい」
彼が瞳を開く。
「あなたも、この場所が好きなの?」
「ああ、、」
「隣、いい?」
返事はなかった。
(断らないってことは、いいのよね)
隣に座り、草原の彼方を見つめる。
いつもは上から見下ろしている風景が違って見える。優しい草の海が少女を包んでいた。
少女は彼の横顔を見る。同じように草原の彼方を見つめる瞳。だが、その眼差しがどこか寂しげに見えた。
風が2人の間を通り抜け、いつの間にか陽がかげり始めていた。
「もう、帰らなきゃ」
呟いて立ち上がった少女に、やはり顔を向けることはしなかった。
「ねえ、、また会える?」
ふう、と小さなため息をつき、彼はようやく顔を向ける。
「気が向いたらな」
「ほんと?きっとよ」
顔をほころばせ、足早に家路を急ぐ。
「物好きな、、、」
その背中に呟くものの、顔にはかすかな微笑が浮かんでいた。
そして次の日。やはりよく晴れた日。彼はやってきた。だが少女の姿は無い。
「どうかしてるな」
どこかで待っていた自分に苦笑いが漏れる。そのまま戻ろうとしたときだった。
「待って、ここよ」
声は頭上からした。見上げると中ほどの枝にすわり彼を見ていた。
「今下りるわ」
「下手に動くな。こっちから行く」
そう言うと、彼はたやすく少女のもとへとたどり着いた。
「木登りなんて出来るんだ」
「意外か?」
「だって、いいところの貴族様かと思った」
山間の小さな村。景色だけがとりえのようなものだったが、そのせいか金持ちの別荘が数多くあった。
まして彼が着ている服は、見事に飾られた上等な物。そう思うのも無理はない。
「そう思うのなら、それでいい」
「ねえ、名前は?あたしアリシア」
「名など忘れた。2人でしか会わないんだ。必要ないだろう」
「、、、わかったわ。でもいつか教えて」
「いつか、、、か」
その言葉が気になったものの、それ以上は聞こうとはしなかった。
多かれ少なかれ、他人に言いたくないことを抱えてはいるものだ。
それからというもの、どちらが言い出したわけでもなくこの場所での待ち合わせが約束となった。
大抵は、少女のほうがとりとめのない話をして彼が聞き役に回った。
それでも心地よく時間は過ぎていた。
そんなある日、いつもなら明るいお喋りをする少女が黙ったままだった。
笑う事もなく彼を見ようともしない。
「何かあったのか」
彼の瞳をのぞくとトンと肩にもたれる。
「もう、、これないかもしれない」
沈んだ声だった。自分の意志ではないのだろう。
「何処かへ行くのか?」
「そうじゃないけど、あまり外へ出るなって。あたし、、そう長くないわ」
トクン、と彼の鼓動が鳴る。
「回りは隠そうとしてるけど、嘘つくの上手じゃないのよ。
気を使って、知られないよう必死になって。
ごめんね、、あたしから会いたいって言ったのに」
「家はどこだ」
「え、、、?」
「行ってよければ行くよ」
ぱっと少女が顔を上げる。
「ほんと、、?」
「ああ」
見開いた瞳があっという間に潤んでいく。少女は彼に抱きついた。
「ありがとう」