

それはどこまでも続く草の海。手に剣を持ち、なびく地平線の彼方を見つめる。
見つめたその先に、自分に向かってくる人影があった。
ゆっくりと歩いてくるその相手は同じ顔をしていた。
無言のまま、やはり手には剣を持ち目の前で止まる。
とちらからでもなく構える。一回だけ交わる。相手は音もなく足元に崩れ落ちていった。
「、、、様、、お兄様」
「、、、、、!?」
自分を呼ぶ声にフィリオスは我に還る。
「ネリエ、、、」
「、、どうしたの、、さっきから呼んでるのに」
「悪かった、、、最近、夢見が悪いんだ。それを思い出してね」
自分と同じ顔をした相手を殺す夢。
たかが夢と割り切るには、あまりにも現実的な感覚が残る。
だがフィリオスは、心配そうに自分を見ているネリエに
どこか無理はあったが笑ってみせた。
「大丈夫、夢だよ」
それは自分に言い聞かせるようでもあった。
大陸のほぼ半分を治めるランドール王国。
今日、この日は皇太子であるフィリオスの王位継承式だった。
国をあげての祝祭は7日ほど前に始まり、継承式が終わってから更に3日続く。
フィリオスがこの夢を見始めたのは祝祭が始まった日のこと。
「お兄様、え、、と座ってもらっていい」
「ん?こうか」
フィリオスは膝を折り、目線を合わせる。
ネリエは小さく背伸びをすると、フィリオスの額に口付けを落とした。
「昔、お母様がしてくれたでしょう。いい夢がみられるおまじない」
「ありがとう」
「皆も揃ってるから、支度出来たらきてね」
「すぐ行くよ」
ネリエを送り出すと、外へと目を向けた。夢見の悪さとは裏腹に良く晴れた空だった。
「よりによって、こんな日じゃなくてもいいだろうに」
つい、恨み言がこぼれる。
短いノックの音がした。
「よろしいですか」
「入れ」
姿を見せたのはフィリオス就きの士官ラスデル。
「ネリエ様より、ご気分が優れないと伺いましたが」
「大丈夫だよ。少し、、緊張してるかな」
夢のことは誰にも言っていなかった。あの感覚が一瞬蘇る。
「殿下、国中の者が今日という日を祝っております。もちろん私も。
お一人ではないのですから、それだけは、どうかお忘れなきよう」
ラスデルは優しく微笑んだ。まだどこか幼さが残る若い士官。
だが、代々王家直属の近衛を務める家柄の出身で、フィリオスとは年も近い。
フィリオスが一番近くに置いている相手だ。
「ありがとう」
「皆様お揃いです。よろしいですか」
「ああ、ネリエが待ちくたびれているだろうな」
ラスデルを従えて部屋を出る。
その背後で漆黒を纏う鳥が一声鳴いた。