薔薇の貴婦人(T)

「どうしようかしら、、、」

ひとまず仕上てあがった衣装を前に、アントワネットは悩んでいた。

「やっぱりルディしかいないのよね、こんなこと頼めるの。でも嫌がるだろうな」

自分が頼まれたら快くは思わない。けれど、アントワネットとしては省きたくない工程だった。

「一回だけ、だめもとで言ってみるか」

それを包もうとしたとき

「こんにちは」

元気のいいガレリアの声がした。

「いらっしゃい。あら、3人揃うなんて珍しいわね」

ガレリアの後ろにはレイスとルディ。

「近くを通ったので寄ろうとしたら、反対側から2人がこちらに向かっていたんですよ」

「ルディさんの所に行ったらいないから、多分ここじゃないかと思って」

「丁度よかったわ。ルディのところに行こうと思ってたの」

「私のところですか?」

「レイスかガレリアでもいいんだけど
 今頼まれてる衣装の依頼主が同じくらいの背なのよ。
 形になったから試しに着てみてほしい−」

言い終わらないうちに、レイスとルディは真ん中にいるガレリアに目を向ける。

「え、、と、、僕?」

「この中でなら、ガレリアが適任だと思いますけど」

「同感だ」

そこでガレリアはテーブルにあるドレスに気がついた。

「もしかして、、あれですか?」

ガレリアは恐る恐る訊いた。

薔薇柄の、どう見ても<ドレスのような>ではなく<ドレス>なのだ。

「依頼主が、、女性にしては大柄な人で。この採寸でドレスって初めてだから」

すまなさそうにアントワネットはガレリアを見る。

そして無言のまま両隣に立つレイスとルディは何ともいえない迫力があった。

「一回、、、着てみるだけですよね」

「ほんとにそれだけ。全体が見れたらそれでいいわ」

「、、、、、わかりました」

ドレスを抱え、ガレリアは店の奥へと消えた。

「あれを私に着せるつもりだったんですか」

あからさまに安心した様子でルディが言った。そしてレイスも内心は同じ。

「他に浮かぶ相手もいなかったし。これでも散々悩んだのよ」

「偶然とはいえ、ガレリアに感謝ですね。
 それで、レイスたちが私のところへ足を向けたのはどうしてなんです?」

「祭りの日以来、連絡が何一つ来ないのをガレリアが心配してたんだ。
 何もないのはいい知らせだと言ったが、それでも気になるらしくてな。
 何もないならないで、手紙の一つでもよこしてやってくれ」

「悪いことしましたか、、、」

自分を気に懸けてくれた相手に、この役回りは悪かったかもしれないと
少しだけ思う。

それでも、安心のほうが大きくはあったが。

「次があったらルディに頼むわね」

「ないことを願いますけど、あったらしかたありませんね。引き受けます」

ドン、と奥から倒れたような、ぶつかったような音がした。

迷うことなくレイスが奥へと入る。それから間もなく

「い、いいよ!歩けるってば!」

と、ガレリアの叫ぶ声がした。

「大丈夫だから下ろして!」

「姫を助け出す王子といったところですかね」

想像はついた。そして思ったとうり、ガレリアを抱きかかえたレイスが戻る。

薔薇柄のロングドレスがふわりと揺れる。

真っ赤になっているだろうガレリアは、レイスの首に腕を回して顔を胸にうずめたまま。

レイスはガレリアをそっとソファーに下ろした。

「足、痛めたの?」

「裾を踏んで転んだようだな。冷やせるものをくれないか」

「すぐ戻るわ。少し待ってて」

「い、、っ、、」

「大丈夫か?」

「心配して来てくれたのにすみませんでした」

「ルディさんのせいじゃないよ」

塗り薬と包帯を持ったアントワネットが戻る。

塗られた薬の冷たい感触が心地よかった。

「痛みが引くまでは下手に動かさないほうがいいわね。
 ごめんなさい、無理なこと言って」

「いえ、転んだのは僕だから誰のせいでもないです」

鮮やかな薔薇の上でガレリアの髪が揺れた。

「時間も時間だし、夕食たべていって。お礼とお詫びを兼ねてたくさん作るわ」

「、、、そうさせてもらうか。いいか、ガレリア?」

「僕はいいよ」

「ルディもよければ一緒にどう?」

「よければ、そうさせてもらいます」

「それじゃあ、少し早いけど閉めましょう。ルディ、買い物付き合ってくれる」

「もちろん、それくらいはしますよ」

アントワネットは扉の札を架け替えると市場へと出た。



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