透明な糸(]V)


「えっと、これはフレデリックでケイオスはお酒。喜んでくれるかな」

キエヌでの仕事を終えた翌日。

帰り支度をするオルガとフィータは対照的だった。

フレデリックのいるサルバスへ帰ることが嬉しくて、機嫌のいいフィータ。

あの家を出るまでのカウントダウンが始まったという思いのオルガ。

アリエルの審判はまだ下りていないが、出ることを覚悟していたほうが諦めもつく。

「アリエル、できたよ」

「オルガ、そっちは」

「俺も出られる」

「行くか」

こうして、キエヌに集ったかつての鳥達はそれぞれの居場所に戻っていった。


「フレデリック〜ただいま」

家に着くとフィータは真っ先にフレデリックを抱きしめた。

リビングに移りお土産を取り出す。

「お留守番ありがとう。フレデリックにもお土産買って来たよ。
 みんなとおそろい。ほんと?うれしい?」

ぬいぐるみであるフレデリックから返答があるはずもないが
フィータはそれが聞こえているかのような笑顔になる。

そんなフィータをアリエルとオルガは黙ったまま見ていた。

「あのね、大きい船見てきたんだ。それから甘いお菓子も食べた。
 あとは、、、、カーニバル」

キエヌで見たこと聞いたこと。

思い出しながら、楽しそうにフィータはフレデリックに教えていく。

このままがいいのか、それとも現実を教えたほうがいいのか。

考えても結論の出ない問いかけを、2人は離すことができなかった。

「アリエル、お仕事が終わったら今度は皆でいこうね」

フィータだから、叶うと信じているのだろう。

アリエルは答えられない。

「、、、、アリエル?」

「、、、、ああ」

短く返すのが精一杯だった。その答えに、フィータは笑顔になる。

「ずっと、皆一緒だよフレデリック」

それは、あまりにも純粋すぎる願いだった。


サルバスに戻って2日後の夜。

フィータを寝かしつけ自室で酒を飲みながらオルガはぼんやりと天井を眺めていた。

「あと、、、、何日だろうな」

宿の改装はどこまで進んでいるのだろう。あと何日ここにいられるのか。

そんなことを考えていた時、ノックの音がした。一呼吸分の間をおいてアリエルが入る。

審判を受けるその時がきたのだと、オルガはアリエルに向き直った。

「これからのことだが」

「どんな答えでも従うつもりだ」

アリエルはオルガの使っていたグラスを取った。

そして、ボトルに残っていた一杯分を注ぎオルガに差し出す。

これが何を意味するのか分かりかねたオルガは手が出ない。

そんなオルガにアリエルは告げた。

「これからもよろしく」

「アリエル、、、」

「ほら」

促され、ようやく手が動いた。

「遅くなって悪かった」

「じゃあ、いいのか?このままで」

「今のお前が私達には必要だ」

「、、、、、」

「考えたよ。お前の言ってたリスクも。
 昔のことでトラブルが起こるかもしれない。
 それを差し引いても、お前にはいてほしい。そう思った」

「アリエル、、、」

「フィータはこれからも一緒にいるのが当然だと思ってる。
 叶えてやりたいんだ」

「、、、こんな俺でも、、、、」

「昔のことはもういい。それに、礼を言うのは私のほうだよ」

アリエルは微笑んだ。

「お前に任せきりで、それが甘えだと気がつかなかった。
 反省してるよ。今までありがとう。そしてこれからも、大切な家族だからな」

「、、、、、ありがとう」

すっと、オルガから何かが落ちた。知られないように封印してきた過去。

だがそれを受け入れられた今、オルガもまた鳥カゴから解放されたのだ。

アリエルとフィータのためなら何も惜しまないことを、オルガは静かに誓った。


更に数日後、キエヌからの家具が到着しアリエルの宿も無事新装開店となった。

それぞれに日常が戻り、運命を司る女神の糸紡ぎはようやく終わりを迎えたのだった。


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