人の隣で闇に生きるヴァンパイア。

深い森の奥、静寂に守られた館でアウグストは夜を見つめていた。

人間と相容れないことはわかっているが、生きることを望む気持ちは同じ。

手を取り合ってとまではいわない。

せめて同じ時の中で生きることを願うが、アウグストの考えは少数派だ。

「月もない夜か」

今夜は月光を遮るほど雲が厚い。

部屋の扉が開いた。

入ってきたのは同じ闇の住人であるクリフ。

ボトルを取りソファーに座る。

「すぎると薬も毒に変わるというぞ」

「人ほどやわじゃないよ」

「町の様子はどうであった」

「犯人のわからない不可思議な事件とかで賑やかだった」

「クリフ、、、、、」

それがどういうことなのか、アウグストもクリフもわかっている。

ここしばらく狩りが目立っているのだ。

人目に立たないよう
できるだけ騒ぎにならないようにと伝えてあるはずだった。

だが、クリフの考え方はアウグストの逆だ。

「クリフ、言ったはずだ」

「派手な狩りはするな、何度も聞いてる」

「我らが生きるためでもあるのだ」

クリフは乱暴にグラスを置いた。

「人に情けをかける必要がどこにあるのさ。
 それだけのことをされてきたんでしょう」

「それでも、我らを守ることになる。
 わからないそなたではあるまい」

わかっている。

人が恐れる気持も、恐れられてきた闇の命の生き方も。

「人と我らの両方を知るそなただ。
 その狭間で苦しいこともあるであろう。けれど」

「何がわかるの!」

「、、、、、、、、、」

「わかりはしない。アウグストには」

「クリフ、、、、、」

クリフはダンピール。

人とヴァンパイア、両方の血を受け継いでいる。

魔物に愛された異端者として親子は人に追われた。

アウグストと出会った後、同じ闇に生きている。

どちらにもなりきれないもどかしさは
クリフを常に苛立たせていた。

「せいぜい脅えて暮らせばいいんだ」

「それで笑えるようになるのか?」

「、、、、、」

「持て余してる心をぶつける何かが欲しいなら
 我はそなたが笑える何かであってほしい」

クリフの苛立ちを少しでも軽くしたいと思う。

何があれば楽になれるのか。

それはアウグストが常に気にかけていることだった。

そんなアウグストの心に対して、クリフは素直になれない。

自分の心を探している。

だが、他の誰かに入ってほしくないのだ。この想いの中に。

「ほっといて」

「クリフ、、、、、」

アウグストに背を向けて、クリフは部屋を出た。

アウグストはグラスを満たし軽く揺らす。

迷う心のように、波紋が生まれ消えていった。


夜の町。酒場が並ぶ一画。

灯りは歩く人を照らし、女たちの影が揺らぐ。

ざわめきの中を歩いていると

「ですから、そう言われてもお断りしかできません」

女の声だった。

声の方向から歩いてきた人は呆れたように肩をすくめる。

クリフは先へ進んだ。

「またあいつか」

「保安官に」

そんな声の前にいたのは男と女。男のほうが言い寄っている様子だ。

服は立派なものだが、中身が伴っているとはいえない。

横柄ともいえる言い方と態度は
金持ちの我儘息子といったところか。

クリフは出ると女の手を取った。

「待たせちゃったかな」

突然現れたクリフに女は驚いたが
機転を利かせ話を合わせた。

「いえ。私のほうが早すぎたみたい」

「メイベル、そいつは」

だが先にクリフが入る。

「僕の連れに何か」

とっとと失せろ。

そんな圧力を裏に秘めて、クリフは男を見据えた。

「い、、、、いや、その、、、、、」

「行こうか」

「ええ」

のまれて動けない男を残し、2人は歩きだした。


ばらく歩き距離を置いたところで足を止めた。

「ここまで離れれば大丈夫かな」

「ありがとう。助かったわ。
 とにかくしつこくて、断っても諦めてくれないのよ。
 客の一人でしかないのに」

「大きな勘違いをしているみたいだね」

「気の毒なところもある人なんだけどね」

「、、、、、、」

「まあ、あたしが踏み込める話でもないわ。
 ね、少し時間あるかしら」

「急ぎの用事はないけど」

「よかったら飲んでいかない?お礼に一本おごるわ」

「近いの?」

「すぐそこ。この辺りじゃ評判いいのよ」

艶笑を浮かべ女を前面に出して誘う手が多い中
メイベルの笑みは素直だった。

白を想わせる娘。

あまり出会わないタイプだからか
クリフは少しだけ興味がわいた。

「乗らせてもらうね」

「こっちよ」

歩き出したメイベルにクリフも続いた。


   BACK   NEXT