出奔(U)


キエヌと地方を結ぶ宿場町サルバス。快晴となった空の下を、ケイオスはゆっくりと歩いていた。

「こんな日くらい、何も起きなければいいけどな」

ケイオスは治安警備を預かる隊の隊長だった。今日は久しぶりの公休日。

仕事が入らないことを願っていると

「ケイオス〜」

呼ぶ声がした。

「フィータか」

ベンチに座り、手を大きく振っているのはフィータだった。

向きを変え近づき、隣に座る。

「いつもと違うね」

「今日は休みだからな」

「お仕事無いんだ」

「明日からはあるよ。一人なのか?」

「オルガもいるよ。すぐ戻るから、ここで待ってろって」

無邪気な笑みを向ける。

フィータはこの町で宿屋を営んでいるアリエルの義理の弟。

だが、先天的な障害で、精神面は時を止めたままだった。

今でもフィータは、くまのぬいぐるみを生きている友達だと疑わない。

アリエルに黙って町へでて迷子になり
捜索願が出たことも一度や二度ではない。

だが、この兄弟の家にオルガという同居人がきてからは、捜索願も出なくなった。

「アリエルとオルガと、3人でおでかけするんだ。フレデリックはお留守番なんだけど」

「3人でか。どこに行くんだ」

「えっと、、、キエヌ。おっきな港があるんだって」

「キエヌ、、、賑やかだろうな」

「フレデリックと、ケイオスにもお土産たくさん買ってくるね」

「ありがとう」

「、、、あ、オルガ〜」

やはり大きく手を振った先に、こちらに向かって歩くオルガの姿があった。

挨拶代わりに片手を上げたケイオスに、オルガも同じように返した。

「お帰り。ケイオスにもお話したよ」

「3人でキエヌに旅行だって」

「旅行っていうより、アリエルの商用に着いて行くんだよ。で、その買出し」

「そして財布を忘れた、そんなとこだろうな」

「財布は持ったけど、金を忘れた」

「、、、、、何やってるんだか。ま、フィータに土産の約束も貰えたことだし
 いい旅になるよう願うとしよう」

そう言いおえたケイオスの表情が厳しくなった。

「ケイオス?どうしたの?」

「お邪魔虫が来た」

「た、隊長。お休みのところ申し訳ありません」

息を切らせてきたのは部下の一人。

「わかってるなら何で来るんだ」

「あ、、あの、どうにも手に負えなくて」

「この前の休みにも同じ言葉を聞いた」

ついさっきまでとは一転、態度は仕事上のそれに変わっている。自分にも部下にも、仕事に対しても厳しいとの評判どおりに。

「場所は?このまま行くぞ」

「は、はいっ!」

知らせに来た部下の緊張した様子のほうが、オルガには気の毒に思えた。

「それじゃここで。気をつけてな。フィータ、お土産楽しみにしてるよ」

「ばいばい。お仕事がんばってね」

「またな」

ケイオスを見送り、フィータはベンチを下りた。

「ケイオスにもお土産かって来ようね」

「ああ。行くか」

「うん」

3人の出奔は、そう日を置かずのことだった。


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