
交錯
「無事に渡せたのね。よかった」
アントワネットの店。
レイスとガレリアの写真を見ながら、アントワネットは優しく微笑んだ。
「レイスも同じこと考えてたのね。ガレリアが蒼を選んだのは偶然なのに、上手く揃ったこと」
「それには私も驚きましたけど」
ルディはアントワネットを見ていると春の日差しを思い出す。
全てを無条件で包み込む陽だまりのような、そんな表情。
「どうしたの」
「いえ、、実は余計なことかと思っていたんです。かえって、あなたには悪いかと」
「そんなことないわよ。ありがとう。あの2人には変わらないでいてほしい」
アントワネットはそっと写真を置いた。
「ルディは好きな人いないの?」
「ゴホッ!」
半分口に含んだお茶で勢いよくむせ返る。
「ごめんなさい!大丈夫?」
「ふう、、ええ、何とか」
「いけない、染み込んじゃうわね。上着貸して」
それを受け取ると奥へと入った。
「あなたを愛していると、、、言えるわけないでしょう。まさか、、本人に訊かれるとはね」
封じ込めて、決して告げまいと誓っている言葉。忘れることは出来ないけれど。
ほどなくアントワネットが戻る。
「洗ったら届けるわ。急ぐから」
「急がなくていいですよ」
「、、、訊かないほうがよかったことかしら。嫌な思いをさせたのなら謝るわ。ごめんなさい」
「、、、手の届かない人です」
ルディは視線を落とした。
めったに見ない表情に、アントワネットは自分から訊いたことながら言葉を返せない。
「あなたと同じですよ」
ルディは顔を上げると、いつもの本心を読めない笑みをつくる。
「ガレリアに言ったでしょう。レイスが笑っていられるなら、隣にいるのが自分でなくてもいいと。
無理やり私のところに引き寄せても、きっとその人は笑わなくなります。
微笑を奪ってしまうくらいなら、、、今のまま、見ているだけで十分です」
「、、、あなたの想う人も幸せになるといいわね」
「そう、、、願います。ごちそうさまでした」
ルディはカップを置くと席を立った。これ以上はきつい。
「急がなくてもいいですからね。また来ます」
「何か代わりになるもの持って来るわ」
「いいですよ。ではまた」
でも、そう言いかけたアントワネットが振り返ったときには、すでにルディの姿はなかった。
たった一すじの涙を知るのは、当のルディ独りだけだった。